日比野日誌
全国の郷土ずし紹介
つつじが咲き乱れる頃。田には水が張られて、田植えを待っています。いよいよ、本格的な農作業が始まります。
大分県では昔、農作業が忙しくなる前に、庄屋が小作人を呼び集め、ごちそうをふるまいました。大分市竹中地区ではこの会のことを「地獄入り」と言います。「明日から地獄のようなつらい日々が来るのだぞ、暇でいられるのは今日までだぞ」という意味でしょうか。
さて、ごちそうといっても、魚はイワシかアジ、野菜はイモか豆くらいのものでした。けれども小作人たちは「米の飯が食べられる」と言って、つつじの頃の「地獄入り」を楽しみに待っておりました。
そのときに出されたのが、このすしのおにぎり。大きなうずら豆が印象的でしょう。つややかに煮るのは庄屋の嫁の腕の見せ所です。また、写真で見るとよくわかりませんが、中には焼いたアジが混ざっています。それも、まだ熱いうちに身をほぐし、直前に酢をうって、すしご飯に混ぜます。
一見、単純な調理法に見えますが、まさに、庄屋自慢の料理だったのです。
「お庄屋さま」のことを「お方さま」と呼びました。だからこのすしのことを、「お方ずし」と言います。今は、昔を懐かしんで、たまに作られます。